[著者] 遅咲 万里江
彼の部屋には白い壁があった。
彼の白い壁には映画が映った。
私たちはいつも壁に映る映画の前で愛し合った。
壁に映る映画のラブシーンの前で、それよりもリアルに。
だけど、今日は違う。
別れ話をしにきたんだ。
別れ話をしにきた、はずなのに……。
思い出がつまった彼の部屋での別れ話。
あくまでいつも通りに振舞おうとする彼。
未練とか、そんなんじゃない、安いワインのせいでもない。
もう、この部屋に来ることもない、そう誓ってきたのに、壁に映る映画が、私の理性をどんどん現実と関係ないものにさせていく。
どこにでもいる恋人同士。
どこにでもある別れ話。
どこにでもある風景。
でも、二人にとっては、そんなどこにでもある物語が、映画よりもドラマチック。
周りからしたら平凡で小さな恋かもしれない。
でもそんな小さな恋が大切で愛おしくてしょうがない大人たちに捧げる、
リアルで切ないラブストーリー。
定価:110円(本体100円+税10%)