[著者] 鮫野くみ
孤児院から引き取られて裕福な家の子供になった藍子。きょうだいも出来た。姉が四人、兄が一人。特に兄は意地悪でとても怖い。
(冒頭部分)
藍子《あいこ》は孤児院で暮らしている。
十歳の誕生日の朝に女の人が藍子を訪ねてきた。先生が喜んでいる。
「凄い女優さんが来たのよ」
小さな駐車場に大きな車が停まっている。
その女の人は色が白くて茶色い髪が長くて背が高い。水色のワンピースが似合っている。銀色の丸い耳飾りが耳の下で揺れていて口紅はオレンジ色である。
優しそうな目だけどじっと見られると顔が熱くなる。目を逸らさないとドキドキしすぎて気を失ってしまう。だけど目を逸らすことが出来ない。
こんな綺麗な人は見たことがない。後ろにひっくり返りそうになった時抱き寄せられてケーキみたいないい匂いがした。とても甘い声で言う。
「ずっと探してたの。やっと見つけた」
先生が藍子の部屋の荷物をまとめて紙袋に入れて持ってくる。新しい家族が出来て孤児院を出ていく子を見送ったことは何度かある。自分の番が来るなんて思ってなかった。
定価:330円(本体300円+税10%)